現代の食事はまさに、「栄養過剰の栄養失調」の状態と言えます。いつでもどこでも何でも食べられる半面、食習慣の崩壊、個食の増加、加工食品の氾濫、電子レンジの普及等で知らず知らずのうちに、(カロリーはあるけれど)必要な栄養素の欠落した「エンプティー」な食事を摂っていることが実に多くなって来ています。誤った食事・ライフスタイルを続けていると、身体の恒常性を維持するために必要な栄養素(タンパク質、ビタミン、ミネラル等)が慢性的に欠乏してきます。また、ある程度食事に気をつけていても、精神的・肉体的に過剰なストレスに曝され続けていると、ストレスに対抗するための身体のシステムを十分作動させるのに必要な栄養素が相対的に不足するようになり、その結果「慢性疲労」、「うつ状態」、場合によっては「発がん」と言った「消耗した」状態を招来することになります。
例えばビタミンC。身体の恒常性を維持するためになくてはならないビタミンですが、人間の身体はそれを作り出すことができません。外から摂取しないと極端な場合「壊血病」となり死んでしまいます。ビタミンCは血中濃度を1とすると、脳には20倍、白血球には80倍、副腎には150倍のビタミンCが存在すると言われています。このことはすなわちビタミンCが、抗ストレス(副腎は抗ストレスホルモンを作る場所)、抗感染症(白血球は病原菌をやっつける)、脳の活性化に大変重要な栄養素であることを意味しています。ビタミンCは、喫煙、病気、野菜・果物摂取不足、アルコール摂取、紫外線、激しい運動、強いストレスなどでどんどん消費され不足して行きます。
分子整合栄養療法では、例えば人間ドックなどで行われているものと同じ血液検査から、タンパク質不足、ビタミン・ミネラル不足、血糖調整障害、酸化ストレス、抗酸化力、交感神経の緊張状態、などをある程度客観的に推定します。そしてこれを臨床症状と照らし合わせて、(化学物質、すなわち薬を用いるのではなく)必要な栄養素を至適量用いることにより、身体の恒常性の回復を図る治療法です。治療の初期には治療の効率化を図るためサプリメントを用いることもあります。ほとんど副作用のない、心と体に優しい治療法です。
「分子整合栄養療法」の詳細につきましては、下記のURLを御参照下さい。
*MR21点滴療法研究会 http://www.iv-therapy.jp/
*杏林予防医学研究所 http://kyorin-yobou.net/
*NPO法人高濃度ビタミンC点滴療法学会 http://ivc-org.com/
*オーソモレキュラー.jp http://www.orthomolecular.jp/
低血糖症という病気を御存知でしょうか?アメリカではすでに30年以上前からその存在が指摘されていた病態ですが、日本ではまだ医療関係者の間でもまだそれほど認知されていない病態です。1970年代頃より、子供たちの異常な行動が社会的に問題になって来ました。「校内暴力」「不登校」「いじめ」「キレやすい若者」「疲れやすい若者」「無気力な若者」「ひきこもり」等々・・・。最近では「草食系男子」なんて言葉も流行っています。こうした若者を中心とする異変をもたらした主要な要因の一つに、低血糖症の増加があると考えらています。
【アメリカで認知された背景】
1975年、アメリカでは肥満や生活習慣病の急増に伴う医療費増大が問題になったことから、食事と健康の関係を探ろうとする「栄養と人間のニーズに関する特別委員会」(通称マクガバン委員会)が上院に作られました。そして第一線の専門家たちが調査研究を重ねた結果、食事が人々の身体だけでなく心にも大きな影響を与えると言う事実が発表されました。その中でこれから述べます「(機能性)低血糖症」についての詳細な報告がありました。
低血糖症の患者数は、30年位前でさえアメリカでは2千万〜4千万人いると推定されており、現代の日本でも相当数の患者がいると予想されます。
【低血糖症の原因】
★ 精製炭水化物の過剰摂取
★ ビタミン・ミネラルの摂取不足
★ アルコール、タバコ、コーヒーあるいはカフェイン含有清涼飲料水の過剰摂取
★ 過剰なストレス
★ 運動不足 など
私たちの国ではここ数十年食生活が豊かになり、いつでもどこでも十分な栄養が摂取できる豊かさを享受しているものと信じていました。確かに糖質・脂質の過剰摂取によってカロリーは多すぎるほどです。しかし一方で、実は身体の中の様々な機能や代謝を正常に作動させる上で必要なビタミン・ミネラルといった(重量的には)微量な栄養素が、非常に不足しやすい食環境になってきているのです。いわゆるこうした「現代型栄養失調」といえる状態が、低血糖症発症の主要な原因の一つになっているものと考えられます。具体的には、
★ 穀類の精製(白米・白パン・白めん)、砂糖の精製(白砂糖)、塩の精製などによって、摂取するビタミン・ミネラルが著しく減少する。精製された炭水化物は血糖値が急激に上昇しやすい。
★ 昔と比べ野菜などに含まれるビタミン・ミネラルの含有量が減少してきている(土壌の劣化)。
★ 食生活の乱れ(個食の増加によるインスタント食品やジャンクフードの多用)によるビタミン・ミネラル摂取不足。
★ ライフスタイル(アルコール、喫煙、過剰なストレスなど)の影響でビタミン・ミネラルを大量に消耗する。副腎からの過剰なカテコーラミン分泌。
などが考えられます。
【低血糖症のメカニズム】
私たちの身体は、一時的なら多量の糖質を摂取しても対応できますが、継続的に多量に摂取するとインスリン(血糖値を下げるホルモン)を分泌する膵臓を疲労させ適正な分泌ができなくなり、少し糖質を摂取しただけでもインスリンを過剰に分泌するようになります。そうすると血糖値が必要以上に下がるようになります。血糖値が下がりすぎると生命維持にかかわるので、今度は下がりすぎた血糖値を上げるために、アドレナリン・ノルアドレナリンなど血糖値を上げるホルモンが過剰に分泌されます。アドレナリンは別名攻撃ホルモンとも言われ、怒り・敵意・暴力といった攻撃的な感情を刺激します(→キレる状態)。ノルアドレナリンは、アドレナリンとは反対に、恐怖感・自殺観念・強迫観念・不安感といった否定的な感情を刺激します(→うつ状態・パニック状態)。低血糖症の患者さんは、こうして一日の内何度も血糖値が乱高下を来たし、それに伴い過剰に分泌されるアドレナリンなどのホルモンにより神経や情動がかく乱され、身体の中で感情の嵐が巻き起こっている状態と言えます。低血糖症は膵臓が疲労しやすい人、すなわち糖尿病の家族歴のある人に発症しやすいと言われています。低血糖症は、インスリンの適正分泌ができなくなった状態という意味では、糖尿病の前段階の状態と言うこともできます。
【低血糖症における身体症状】
手足の冷え、呼吸が浅い、眼の奥が痛む、動悸がする、頻脈、狭心痛、手足の筋肉のけいれん、失神発作、手指の震え、締め付けられる頭痛や片頭痛、発汗、顔面蒼白、体重減少、たちくらみ、けいれん、眼前暗黒感、日光がまぶしい、甘いものが無性に食べたい、胃腸が弱い、口臭、ため息、生あくび、異常な疲労感、起床時の疲れ、日中特に昼食後の眠たさ、集中力の欠如、めまい、ふらつき、物忘れがひどい、眼のかすみ、等々
【低血糖症における精神・神経症状】
甘いものが無性に食べたくなる、理由もなくあるいはちょっとしたことに突然イライラする・不安になる・怒りがこみ上げてくる・泣きたくなる、悪い夢をよく見る、幻聴・幻覚がある、パニックを起こしやすい、等々
精神・神経症状の重症度は
★ 低血糖症を発症してからの年数
★ 膵臓の先天的な弱さ(遺伝性、家族に糖尿病の人がいる)
★ アドレナリンなどカテコールアミンを分泌する副腎の疲れ具合(アレルギーやストレス度などの関与)
★ カテコールアミンの分泌量と速度
★ 脳内の興奮を鎮める作用を有するセロトニンやGABAなどの生成
★ 神経伝達物質の調整に関与するビタミン・ミネラル・脂肪酸の量
★ 脳内環境に必要な栄養状態
など、様々な要因により影響を受けています。
病院・診療所には、上述したような様々な身体的・精神的症状を訴えて来られる患者さんがたくさんいらっしゃいます。従来の検査法でいろいろ調べても異常がない場合、多くは異常なしとして治療の対象にならないか、心身症や精神的疾患として薬物療法が開始されます。こうした患者さんの中に、少なからず低血糖症の患者さんがいるものと考えられます。患者さんの日頃の食生活の内容を詳細に聞くことがとても重要です。
【低血糖症の診断】
診断には5時間の糖負荷検査が必要です。糖負荷検査とは、75gの砂糖水を空腹の状態で飲んでもらい、時間の経過とともに血中の糖とインスリンの濃度がどう変わるか調べる検査です。糖尿病の診断では2時間までしか調べませんが、低血糖症の場合、負荷後3〜5時間で血糖値が下がってくることが多いので、負荷後5時間目まで経過をみる必要があります。
低血糖症と診断するのは、以下のような場合です。
★ 糖負荷後の血糖値が、負荷前の血糖値より20%以上下降した場合
★ 糖負荷検査の間に、血糖値が1時間の間に50mg/dl以上下降した場合
★ 糖負荷検査の間に、血糖値が絶対値50mg/dl以下を記録した場合
★ 上記条件を完全には満たさないが、めまい・頭痛・混乱・発汗・憂鬱等の症状が現れた場合 など